中小企業の経営者にとって、事業承継は避けられない課題です。多くの方が相続税の節税対策に目を向けますが、本当に承継すべきは、価値ある事業そのものです。今回は、中小企業が抱える経営上の問題を整理します。
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中小企業の事業承継とその実態
中小企業における経営者の事業承継といえば、まず思い浮かぶのが相続税の対策です。多くの経営者は、税負担を抑えるために顧問税理士や金融機関と相談し、株価を引き下げたり、非上場株式の納税猶予制度を活用したりする方策を模索します。たしかに、一定の節税対策は合理的な経営判断の一環といえるでしょう。
しかしながら、承継すべき「財産」は何かと問われたときに、単に株式や不動産などの資産だけに意識が向くのは本質的ではありません。真に承継すべきは、「価値ある事業そのもの」であるべきです。すなわち、安定した収益力があり、従業員の生活を支え、地域社会に貢献しうる持続的な経営体こそが、次世代に引き継がれるべき存在です。節税によって株式を承継しても、その企業が赤字続きで、将来性も見通せないようでは、後継者の負担感は極めて大きくなります。
現実には、後継者が決まらないまま廃業に至る中小企業が年間4万社を超えると言われています。こうした背景には、従業員の高齢化や取引先の減少といった構造的な問題もありますが、何よりも「事業に価値がない」という根本的な要因が横たわっています。
事業の価値とは何でしょうか。それは、顧客からの信頼、安定した収益基盤、成長の余地、そして社内の組織力や従業員の働きがいといった要素の総体です。これらは一朝一夕に形成されるものではなく、長年の経営努力の積み重ねによって築かれるものです。
なぜ中小企業の生産性は低いのか
日本の中小企業は、全企業数の99.7%を占め、雇用者数の約7割を支える重要な経済基盤です。しかしながら、労働生産性という観点で見ると、先進諸国の中でも際立って低い水準にとどまっています。日本生産性本部の報告によれば、日本の中小企業の時間当たり労働生産性は、OECD加盟国38か国中で30位前後に低迷しており、1人当たり生産性もラトビアやポルトガルと同水準にあるとされます。このような状況の背景には、様々な課題が存在しています。
第一に挙げられるのが、日本の中小企業の「規模の小ささ」です。経済学の基本原則として、企業規模が大きいほど、スケールメリットを活かして生産性を向上させやすいとされています。実際に、アメリカやドイツの中小企業は平均的に従業員規模が大きく、一定の設備投資やIT導入、人材育成が可能となっています。
これに対して、日本の中小企業は従業員10人以下の零細企業が大多数を占め、従業員1人あたりの付加価値が低くなる構造にあります。
第二に深刻なのが、ICTやデジタル技術への投資が著しく遅れている点です。近年では、クラウド会計システムや業務効率化ツール、AIによる顧客分析など、労働集約型経営から脱却するための手段が多く存在します。
しかし、中小企業では「よくわからない」「導入コストが不安」「現場が高齢化していてついていけない」といった理由から、IT投資が進まず、紙と電話による業務フローが依然として主流となっているケースが多数見られます。
たとえば、ある地方の製造業では、受注・在庫管理を手書き台帳で行っており、ヒューマンエラーによる納期ミスが頻発していました。これを業務管理ソフトに切り替えただけで、月間の工数が30時間削減され、社員の残業もほぼゼロとなった事例があります。
第三に、ゾンビ企業が存続することで新陳代謝が生じないという構造的な問題です。「ゾンビ企業」とは、本来であれば市場から退出すべきにもかかわらず、銀行のリスケジュールや政府の支援融資によって延命されている企業を指します。日本では、2009年の中小企業金融円滑化法や、コロナ禍で実施されたゼロゼロ融資の影響により、多くの中小企業が経済的に延命されました。帝国データバンクの調査によると、2022年時点で企業全体の17%超がゾンビ企業の定義に該当しているとされます。
これらの企業が市場に残ることで、本来ならば成長企業に向かうべき人材や資金、土地などの経営資源が非効率な企業に滞留してしまいます。また、価格競争の面でもゾンビ企業は赤字覚悟の低価格を提示し、健全な企業の収益機会を奪ってしまうという構造的な弊害があります。こうした状況は、日本経済全体の生産性水準を引き下げる要因となっているのです。
価値ある事業を承継するために必要な視点
「承継する価値のある事業」を築くためには、経営者自身が生産性向上を主眼とした経営管理体制の確立に意識を向ける必要があります。
その手段として第一に、数値に基づく経営の「見える化」があります。これは、経営実態が外部から明瞭に把握できること、金融機関や取引先、後継者にとって「透明性」が確保されていることを意味します。
具体的には、月次試算表の作成、原価・粗利・販管費などの各経営指標の管理など、数値によって経営の実態をタイムリーに把握できる体制が求められます。
中小企業では、経理業務が帳簿入力にとどまり、経営管理ツールとして活用されていないケースが少なくありません。しかし、数字がなければ、どこに問題があるか、何を改善すべきか、どこに強みがあるのかが見えてきません。事業を次世代に引き継ぐということは、単なる株式の移転ではなく、「経営ノウハウと経営管理体制」を承継することなのです。
第二に、収益力の裏付けとなる「強み」明確化しておくことです。承継する価値のある事業には、何らかの「独自性」や「比較優位性」があります。
たとえば、製造業であれば特殊な加工技術や顧客の要望に応える柔軟な対応力、サービス業であれば地域密着の営業スタイルや長年の信頼関係などが該当します。
こうした強みは、あらためて言語化されていないことが多いのです。しかし、後継者にとっては、その「当たり前」を明文化・体系化してもらわなければ、うまく引き継ぐことができません。マニュアルの整備や顧客情報の共有、業務フローの図解などによって言語化しておくことが必要です。
(著者 公認会計士/税理士 岸田康雄)
まとめ
今回は、中小企業経営者に求められる生産性向上の視点について解説しました。
弊社では、生前に行う相続対策サポートを行っています。
生前から相続税のシミュレーションを行っておくことで、余裕をもったプランニングを行うことができ、次の世代に安心して財産を残すことができます。
初回のご相談・お見積りは無料です。弊社の経験豊富な税理士が親身に対応いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
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非上場株式に関するよくある質問
- 非上場株式が分散することのリスクとは何ですか?
- 非上場株式の分散には、主に5つのリスクがあります。
リスク1:会社の意思決定が困難。株主は、株式の保有率に応じて「支配権」や「拒否権」を有します。株式分散により経営者の保有比率が下がると、重要事項に関する意思決定が困難になるリスクがあります。
リスク2:株式買取や配当支払を求められる。上場株式のように簡単に売買ができないことが非上場株式の特徴であるため、少数株主から買取を持ちかけられる可能性があります。また、継続的な配当の支払を要求されることもあります。
リスク3:会社の経営者が訴訟される。例えば、株式の持株比率3%以上で会計帳簿や、これに関する資料を閲覧する権利があります。帳簿閲覧権を行使して、会社の問題点を探し、株主の権利を毀損させるような取引が見つかった場合、株主代表訴訟を提起される可能性があります。
リスク4:事業承継税制が使えない場合がある。先代から後継者に株式を承継する際の相続税・贈与税の負担を軽減させるための事業承継税制(納税猶予制度)は、同族内で50%超の議決権がないと適用できません。
リスク5:心理的負担。例えば、会社経営に携わっていない創業時からの少数株主に相続が発生した場合、経営者の事業承継時には、更なる株主分散の可能性があります。少数株主は経営にまったく携わらない状態で、経営者側とも面識がなく協力的な関係を維持するのは難しいでしょう。このようなリスクを解消しないまま後継者に事業承継をすることは、現経営者と後継者の心理的負担となります。 - 株式を集約するにはどうすればよいですか?
- 少数株主が協力的なケースと非協力的なケースで、検討事項が異なります。
(1)少数株主が協力的なケースの検討事項として、誰が株式を買い取るか、株式の買取価格の決定、買取資金をどう調達するか、売手、買手の課税関係があります。
(2)少数株主が非協力的なケースの検討事項として、少数株主が譲渡や贈与することを拒んだ場合には、強制的に株式を取得する「スクウィーズアウト」という手法があり、その代表的な制度に「売渡請求権」と「株式併合」があります。売渡請求権は、株式を90%以上持っている人たちが決議すると10%の非支配株主の持ち分を買い取れること(株主総会での決議は不要)です。株式併合は、複数の株式を1株にまとめることで、少数株主の保有株式を「端株」とすることで、スクウィーズアウトが可能となります。 - 株式譲渡での集約では、税金にも注意が必要ですか?
- はい、株式譲渡での集約では、税金に注意が必要です。経営者自身が株式の贈与を受けたり、適正な価額よりも低い価額で買い取った場合、会社が株式を買い取った場合など、様々なケースで課税される可能性があります。株式の集約には、専門家にご相談されることをお勧めします。
今回記載した内容は下記の相続通信8月号に掲載しております。