2025年度版・中小企業の事業承継の現状を知ろう

2025年度版・中小企業の事業承継の現状を知ろう

中小企業の事業承継は、単なる世代交代の手続きではなく、企業の未来を左右する重要な経営判断です。倒産・休廃業・黒字廃業の実態や生産性の現状を正しく理解し、事業承継を「第二創業」の機会として捉えることが、次世代への確実な事業継続につながります。今回は、2025年版の公開情報に基づいて、中小企業の事業承継の現状について解説いたします。

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中小企業の倒産・休廃業・黒字廃業の現状はどうなっているか

2025年版小規模企業白書(第8節)によれば、倒産件数は2009年以降減少してきましたが、2021年を底に増加に転じ、2024年は10,006件でした。この原因は、人手不足や物価高に関連する倒産が増加したことです。

他方で、総務省「労働力調査」によれば、2022~2024年の完全失業率は2.6%、2.6%、2.5%と低位で横ばいであった点も示しています。つまり、雇用市場が引き締まる中でも、各社の価格転嫁・コスト管理・人員確保の難しさが倒産に結びつく局面が増えていることが理解できます。

さらに、事業承継が進まない原因の一つとして、「休廃業・解散」があるという事実です。小規模企業白書によれば、休廃業・解散件数は近年いったん減少した後、2023年に増加へ転じ、2024年は約7万件に達しました。その規模別では小規模事業者が一貫して9割超を占め、地域経済の基盤を担う零細企業の事業承継が一向に進んでいない実態がうかがえます。

とりわけ経営判断に直結する問題となるのが「黒字廃業」です。休廃業・解散に至った企業のうち、黒字のまま廃業する企業の割合は2024年でも51.1%と過半でした。後継者不足や経営者の健康問題、採用難、価格転嫁の遅れ、設備更新の見送りなどが積み重なると、黒字であっても将来の見通しが立てにくくなり、早めに廃業を選ぶ意思決定が現実に起きているのです。

この実態から、中小企業の経営者に考えていただきたいことは、「畳む前に事業承継」という発想を持つことです。親族で経営を続けられないなら、従業員・取引先・顧客を守るためにも、M&Aを標準的な選択肢として早期に比較検討することが合理的です。

日本の中小企業の生産性はどうなっているか

諸外国と比べて日本の中小企業の生産性がどの位置にあるかは、経営判断の土台になります。日本生産性本部によれば、2023年の日本の「時間当たり労働生産性」は56.8ドルで、OECD38か国中29位でした。また、「就業者一人当たり労働生産性」は92,663ドルで、32位でした。

日本の順位は必ずしも高くありませんが、裏を返せば、「伸びしろ」が大きいとも言えます。賃上げや人手不足への対応を実現するためには、生産性の向上が避けて通れない課題であることが、国際比較からも読み取れます。

企業規模ごとの生産性の違いを知ると、これからの事業戦略のヒントが見えてきます。中小企業庁の2025年版中小企業白書(第4節)によれば、大企業と中小企業の平均的な生産性の格差は明らかに存在し、近年は格差が広がる傾向も確認されています。

生産性を向上させるには、機械化・デジタル化のための設備投資が不可欠です。この点、中小企業白書によれば、設備投資や無形投資(ソフトウェア、人材、組織など)に関する分析が示されており、設備投資の積み上げが中長期の生産性に波及する点が整理されています。

中小企業の現場の感覚では、「人手が足りないから増員」で対応しがちですが、データが示す方向性は、単純に増員するよりも省力化・高付加価値化のための設備に資金を振り向けるべきだということです。生産性の向上は、経営環境だけでなく、現場のプロセス改善と無形資産の厚みで決まることを、経営者として理解しておく必要があります。

事業承継を「第二創業」の機会と捉えてみよう

事業承継の選択肢は、近年確実に広がっています。中小企業庁の2024年版中小企業白書(事業承継の章)によれば、近年は親族内承継に加え、従業員承継や第三者承継(M&A)など多様な形が浸透しつつあり、M&A支援機関の増加やM&Aプラットフォームの整備など中小企業を支援するサービスが増えてきています。

事業承継の実行に必要な情報が明確になったことで、「親族に限定せず、M&Aも選択肢として検討する」という経営者が増えてきています。

事業承継を「攻め」に転換できるかは、承継後の取組にかかっています。2023年版中小企業白書(事業承継)によれば、事業承継を契機に事業再構築(新製品・新市場の開拓、設備更新、組織の再設計など)へ取り組んだ企業は、取り組んでいない企業に比べて、承継後の売上成長が高めにシフトする傾向が示されています。つまり、事業承継は世代交代の手続きではなく、「第二創業」のスタートにできるということです。

M&Aのケースでも、PMI(統合プロセス)の巧拙がその後の成長可能性を分けます。中小企業白書によれば、買い手・売り手の双方で「事業戦略を明確化」していると、期待する成長を実現しやすいという分析が示されています。事業戦略が不明確な場合は、PMIの実行で迷いが生じ、顧客・従業員・業務の統合に遅れが出やすくなります。

M&Aは譲渡契約の締結がゴールではありません。事前に「どの顧客に何をどう売るのか」「誰が意思決定するのか」「どのシステムをいつ統合するのか」を決め、譲渡の初日からPMI実務が開始される状態にしておくことが重要です。

ここで中小企業の経営者に考えていただきたいことは、将来の成長の布石として、事業承継を行う前の2~3年間は、「事業の磨き上げ」(粗利改善・価格改定ルール設定・取引先ポートフォリオの見直し)と「事業再構築」(新規事業の検討、経営資源の再配分)を行うことです。

引退しようとする経営者が自ら実施できなければ、それを後継者に委ねてもかまいません。事業承継を「第二創業」の機会と捉え、ぜひ引退後の企業の成長まで考えてみてください。
(著者 公認会計士/税理士 岸田康雄)

まとめ

今回は、2025年度版・中小企業の事業承継の現状について解説しました。

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事業承継に関するよくある質問

小規模宅地等の特例とは何ですか?
一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%も減額できる制度です。
特定居住用宅地等の要件とは何ですか?
特定居住用宅地等とは被相続人が住んでいた土地で、配偶者または一定の条件を満たす親族が取得した部分を言います。
特定居住用宅地等については亡くなったときの利用状況として、被相続人が住んでいた宅地等ということが前提としてあります。
次の要件として、それぞれの場合で取得者が誰なのかという点と、申告期限までの所有と居住の継続要件の違いがあります。
相続人の3つの取得者要件とは何ですか?
①被相続人の配偶者
②被相続人と同じの家屋に住んでいた親族
③上記①と②以外の親族
被相続人の配偶者が相続人になる場合の要件は何ですか?
被相続人の夫または妻が該当し、内縁関係といった婚姻関係のない人は該当しません。所有と居住の継続要件はありません。
被相続人と同じ家屋に住んでいた親族が相続人になる場合の要件は何ですか?
被相続人と同居していた生計一親族が該当しますが、例えば、札幌に住む親からの仕送りで東京の大学に通う子が生活をする等、別居でも生計一親族に該当する場合もあります。
相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に住み、かつその宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで持っていることが所有と居住の継続要件となります。
上記①と②以外の親族が相続人になる場合の要件は何ですか?
被相続人と同居していない親族が該当になります。以下の5つの所有と居住の継続要件すべてにあてはまる親族が該当になります。
1)被相続人に配偶者や同居の親族がいないこと
2)相続開始前3年以内に、相続人が自分または自分の配偶者の持ち家に居住したことが無いこと
3)宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
4)相続開始前の3年以内に、土地を相続する人は自己または自己の配偶者、3親等以内の親族、または特別の関係がある法人の持ち家に居住したことが無いこと
5)相続開始時に住んでいる家屋を相続開始前に所有したことが無いこと
小規模宅地等の特例の限度面積と減額割合はどのようになっていますか?
小規模宅地等の特例には適用できる限度となる面積や減額割合があります。
・限度面積 330㎡/減額割合 80%
例1)・相続税評価額 5,000万円
・地積 200㎡
計算:5,000万円×80%=4,000万円
例2)・相続税評価額 5,000万円
・地積 500㎡
計算:5,000万円×330㎡/500㎡×80%=2,640万円
ほかに不動産貸付や駐車場業等、またはそれ以外の事業で使用された宅地等など、特例の適用要件が異なりますので、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。

今回記載した内容は下記の相続通信9月号に掲載しております。