不動産M&Aは、通常の不動産取引とは異なり、法人そのものを売買することで節税効果を高める手法です。今回は、不動産M&Aの概念、メリット・デメリット、相続税対策における重要性について解説します。
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不動産M&Aとは
不動産M&Aは、不動産を所有する法人を売買することで、通常の不動産売買とは異なる税務上のメリットを得る手法です。不動産を直接売却する場合、法人税や個人の所得税が多額に課される一方、法人そのものを売却する不動産M&Aでは、株式譲渡という形で行われるため、税負担を大幅に軽減できます。
具体的には、法人が所有する不動産を売却する場合、まず法人に約 30%の法人税が課され、さらにその利益を株主に分配する際に、最大50%近い所得税が課されます。これに対し、不動産M&Aを利用すれば、株主が株式を譲渡した際の税率は 20%に抑えられ、全体の税負担が軽くなります。
この方法は、特に東京 23 区内などの不動産価値が高い地域に大きなメリットがあり、企業にとって魅力的です。こうした不動産を有する企業は、売却益を最大化するため、不動産M&Aを選択することが多くなっています。
不動産M&Aの具体的な手続きは、事業と不動産の切り離しから始まります。まず、売主は事業を切り離すために会社分割を行い、不動産を保有する会社と事業を行う会社の 2 つに分けます。
これにより、不動産そのものを売却する代わりに、不動産を所有する法人の株式を売却することが可能となります。この手法は、単純な不動産売却に比べて、法人税や所得税を抑える効果があり、株式譲渡での税率は約 20%に抑えられます。
次に、M&Aとして株式譲渡を実行します。買主はデュー・ディリジェンスを行い、対象法人が抱える潜在的な債務やリスクを洗い出します。これは、株式譲渡契約書における「表明保証」や「誓約事項(コベナンツ)」を明確にし、売主と条件交渉を行う基礎となります。
不動産M&Aでは、不動産を含めた法人そのものが売買対象になるため、表面化していない債務や労働問題なども考慮する必要があり、慎重な手続きが求められます。
不動産M&Aのメリット
不動産M&Aの主なメリットは、税負担の軽減です。通常の不動産売却では、法人税に加え、株主への利益分配時に所得税が重なり、手元に残る金額は大幅に削られます。
例えば、30 億円の不動産を売却した場合、法人税として約 30%を負担した後、株主が所得税(最高で約 50%)を支払うことで、税金が約20 億円になり、最終的な手取り額は約10億円にまで減少します。
これに対し、不動産M&Aでは、法人そのものの株式を売却するため、所得税が 20%に抑えられます。この場合、30 億円の譲渡益に対して支払う税金は 6 億円となり、手取り額が 24 億円も残る計算です。
これにより、通常の不動産売却と比べて、株主の手取り額が2倍以上に増えます。また、不動産M&Aは単なる税金対策にとどまらず、事業承継を円滑に進める手段としても有効です。
個人が直接不動産を所有している場合、相続が発生するたびに不動産の分割や売却が必要となり、資産が細分化されるリスクがあります。
しかし、法人として不動産を所有する場合、株式の形で相続するため、資産の大幅な減少を防ぎながら事業承継を進めることができます。不動産賃貸の後継者がいない場合、不動産賃貸業を売却することで、事業の継続と資産保全を同時に達成できます。
これにより、老舗企業や長寿企業にとっても、事業承継を解決する手段となります。なお、不動産を法人に所有させ続けることは、相続税対策として非常に効果的です。不動産を法人化することで、相続時の評価額を大幅に引き下げ、相続税の負担を軽減できるからです。
特に、相続税の評価額が高い都市部の不動産を所有する法人では、その効果が顕著です。個人が不動産を所有している場合、不動産の相続税評価額に課税されますが、法人を通じて不動産を所有していれば、非上場株式の相続税評価額に課税されるため、通常より低い評価額で済みます。
これにより、相続税負担を大幅に軽減できるため、非常に有利です。特に、何度も相続が繰り返される中で、資産の減少を防ぎ、次世代に資産を残す手段として有効です。法人化することで、不動産の管理や運用がより効率的になり、相続が発生しても資産を安定的に保持し続けることができます。長期的な資産管理が容易となるのです。
不動産M&Aのデメリット
不動産M&Aにはデメリットやリスクは買主側にあります。まず、買主側のリスクとして、法人そのものを取得するため、その法人が抱えている負債や従業員問題、過去の税務申告に関するリスクも一緒に引き継ぐ必要がある点が挙げられます。
法人が所有している不動産だけでなく、見えない債務や潜在的なリスクが存在する場合、その対応には多大な労力とコストがかかることが懸念されます。
例えば、簿外債務や未払いの残業代、さらには土壌汚染や製品保証に関連する責任が後から発覚するケースもあります。これらのリスクを十分に評価せずに法人を買収すると、後に予期しない出費が発生し、事業運営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクを回避するためには、事前のデュー・ディリジェンスが欠かせません。M&A実行前に徹底的な調査を行い、法人が抱える潜在的なリスクを洗い出すことで、買主はリスクを最小限に抑えることができます。
また、契約書においては「表明保証」や「誓約事項(コベナンツ)」を明確に盛り込み、万が一のリスクに備えることも重要です。売主が法人を売却しようとするならば、買主が不動産以外の資産や事業に興味を持っていない場合、事前に会社分割などを行い、事業と不動産を切り離しておくことが望ましいでしょう。
これにより、不必要なリスクを回避しつつ、不動産に特化したM&Aが可能となります。
(著者 公認会計士/税理士 岸田康雄)

まとめ
今回は、不動産M&Aの概念、メリット・デメリット、相続税対策における重要性について解説しました。
弊社では、生前に行う相続対策サポートを行っています。
生前から相続税のシミュレーションを行っておくことで、余裕をもったプランニングを行うことができ、次の世代に安心して財産を残すことができます。
初回のご相談・お見積りは無料です。弊社の経験豊富な税理士が親身に対応いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
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相続に関するよくある質問
- 個人間の借金も相続する必要がありますか?
- 被相続人に借入金がある場合、その借入金も相続しなければなりません。
相続とは、被相続人の財産と債務を引き継ぐことであり、借入金も含まれます。相続は以下のような3つの方法ががあります。- 単純承認
- 限定承認
- 相続放棄
限定承認は、相続財産の範囲内でのみ被相続人の債務や遺贈を弁済することを条件に相続を承認する形態です。相続人が複数いる場合は、全員で共同して行う必要があります。限定承認を行うと相続人は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈の弁済義務を負います。したがって、相続財産と相続人の財産は分離して取り扱われ、相続人が被相続人に対して有していた権利義務についても、相続による混同によって消滅することはありません。なお、限定承認を選択した場合、撤回することはできません。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産を一切相続しないという意思表示です。相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされます。相続放棄の手続きは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、被相続人の住所地または相続開始地の家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要があり単独で手続きが可能です。そして相続放棄は撤回できません。なお、相続放棄の効果は絶対的であって、相続放棄をした者は、相続開始の時に遡って相続人とならなかったものとしてみなされ、相続放棄の効力は登記等がなくとも、何人に対しても抵抗することができます。
今回記載した内容は下記の相続通信10月号に掲載しております。